目の前に広がる光景。
 其れは、おびただしいほどの紅。
 ゆあの瞳と同じ深赤。
 血の海と化している通りのすぐ傍に、此の現状を証明する人の死骸。

「ねぇ、なんでしゃべらないの? ゆあはいいこにしてたよ」
「ねぇ、きいてるの!」
「ねぇ、おこるよ。ゆあ、みぃーんなおかたづけしたんだよ」
「ねぇ、ほめてよ。ねぇ」

 女の子は死体に話しかける。
 邪眼と名高い、赤き瞳に涙を溜めて、
 漆黒の艶やかな黒髪を撒き散らして。
 幾ら声を掛けても帰ってくるはずの無いソレらに怒り、死骸を粉々していく。
 愛らしい容貌と声、人を人と思っていないように死骸を蹴散らす姿。
 あまりにアンバランスで、あまりに無邪気な子供の仕草であった。

「ゆあ、行くよ」
「あお! わかった。じゃあ、コレおかたづけるするからちょっとまってて」
「いいよ。ゆあ、片付けなくて」
「どうして、いつもはきれいにけしてるじゃない」
「うん、そうだね。でも、今日はいいんだよ」
「そうなの? わかった」
「帰ってお風呂に入ろうね。血がついて汚くなっちゃったからね」
「きたないの? ゆあが?」
「ううん。そうじゃないよ。君は綺麗だよ、汚いのは君に付いている血だよ」
「ち? ちってこのあかいの?」
「そう、ソレは汚いから早く落とさなきゃね」
「うんわかった。あおだいすきー」

 へへー、とゆあは蒼に抱きつく。
 蒼はユアの見えない死角で、哂う。優美に禍々しく、高貴といわれる顔に貼り付けて楽しげに。歪める。

 あお、あお、と呼ぶ声に、反応し今までの表情が嘘のように優しくなり、ゆあのほうを向く。

「あのね、あのね、たのしかったけどね、ちょっとつまんなかった」
「どうして? 何がつまらなかった?」
「『チカラ』をね、つかっているときはいいんだけど、そのあとは、だれもしゃべってくれなくなるの」
「そっか、それじゃあつまらないね」
「うん、でね、だから、ばらばらのこなごなにしちゃった」
「全部?」
「ううん、いっこか、にこくらいだとおもう」
「そう、じゃあ、もっと壊れにくいものに今度見つけようか」
「うん!」

 嬉しそうに、大きく頷く姿は年相応で可愛らしく誤魔化されそうだが、話している内容は常軌を逸している。
 二人に共通した恐ろしさは、この、人を己と違う何かと考えているところなのだろう。




『良心』の欠如。


 蒼は、周囲の環境によって。
 ゆあは蒼の教育のため。
 邪眼は破滅の象徴、力の象徴。
 人、一人の力によって世界を崩壊させることも出来る。
 そのために忌み狩りをされ、迫害を受ける。

「ねぇ、あお、おふろはいったらごはん?」
「そうだよ。楽しみにしていてね」
「うん」

 二人よって、世界の何十、何百という町が消え、幾つかの国が消えている。
 邪眼の力の乱用によって、理は壊れ、世界が歪む。
 世界の崩壊は、望みの成就はもう目の前だ。

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