とある街に美しい少女が住んでいた。
美しい森を抜けた先に、居を構えた人外の男が存在していた。
街は、大陸の端からやってきた魔女に怯え、街の外れに在る森の主に助けを乞うた。
主は人の生き死に頓着はなかったが、ある条件の代わりに魔女から街を守った。
そして少女は人外の下へと渡る。



***



ドロリと付け根をつたう精液。不快さに眉をひそめて、手近なシーツでそれを拭いとる。
「潔癖症?」
「違う。お前の体液が気持ち悪いの。一度体験すれば気持ちが分かる」
「喜ばしいことに私は男なんで、体験することはありえないよ」
「そうでしょうね」
そのまま少女はベッドにダイブする。うつ伏せに眠る躰を長く美しい黒髪が覆った。
ベッドからは温い温度が直に伝わって来て不快度は上昇。そして己の髪を梳くう手。
「なにをしているの?」
キッと少女は顔だけ上げて睨み付ける。
「わからないかい?」
「訂正する。なんのつもり?」
「たいした意味なんてないさ」
梳いていた髪の一房を掴み、男は口元まで持ち上げて意味深に笑う。当然、その表情(かお)を見上げる少女は厭そうに顔を伏せた。
「悪趣味な男」
「それは光栄だ」
「誉めていない」
「可愛いな、君は」
「どこが?」
少女は生まれてこのかた己を讃える言葉に、可愛いという言葉を渡されたことなどない。
美しい
それが少女を讃える常套句。
切れ長の目に艶やかな黒髪。顔の造作は一級の人形師が丹精込めて作り上げても不可能なほどに、整い切って、ただでさえ人を寄せ付けない。硬質な性格は、他を排敵するかのような美貌は、少女をますます孤立させていた。
「可愛かったよ。私の下で喘ぐ君は」
チュっと音を立てて、髪にキスを落とした。少女は厭な男、と小さく呻く。
男はそのまま顔に微笑みを張りつけて、少女の膝から腰、肩と情欲に塗れた手でゆっくり撫で上げる。強ばる躰。全身の毛が総毛だつようで不快だ。
うなじにキスを落とし、そのまま唾液を含んだ舌が首から耳までを舐める。
「君は愚かだ。それゆえに美しい」
「どうせ、私は家族に売られた女さ」
「ああ、そういうところも含めて、愛しいよ」
「あ…んぁ…ふぅぁ、…やぁ!」
秘所をなぶる手に、慣らされた少女の躰は快楽に忠実に嬌声を上げる。心がどれほど嫌がろうと、躰はとても素直だ。
「そういえば、ベリニッタの街が滅んだそうだよ」
「え?! ヤぁっ……んう…」
快感に跳ねる少女の上に、押さえ込むように男が重なっている。
少女の片方の手は男の手に握りこまれ、残った手は逃げるようにベッド上部へ伸ばし、硬くシーツを握り締めた。
「愚かにも君を差し出した街は、皮肉にも君を私へ渡した後に他国によって滅ばされた」
「な…んでぇ……」
「なぜ助けなかったと? 決まっている。それはすで契約の外だ。私が受諾したのはあの街を、魔女から守ること。それだけだよ」

君が欲しかったから、あの街の願いを聞き入れた

そう嘯くかの男の目には暗い闇が澱んでいた。けれど、少女には見えなかった。それが幸いなのか、不幸なのか、誰も知らない。
「私は心底不思議だよ。君は自分を売った街に対して憤らない。君が私に一言でも零せば、願えば、もっと早くにあの街を滅ぼしてやったというのに」
残念そうに、言葉を続ける男に少女は言葉を失くす。衝撃の余り開いたままの唇の縁を男の指がなぞった。それに反応することもなく、ただ少女は恐怖に戦慄(わなな)く。
この人外の、自分を囲う男は、何千と人が住む街を小娘一人以下だと言っているのだ。
どれほどの力を有しているのだろう? 虫を払うかのようにこの男は容易く、街を、国を、滅ぼす。いつか自分もそんな風に他愛もなく殺されるのだろうか。気まぐれに、物を捨てるように、部屋の片隅にあった何かのように、無造作に捨てられるのだろうか。
「ィ…ヤ!……離して!! っ! ぅんあ…あぁ、……んふぁぁ」
恐怖が背筋を滑った。男との密着している面が、触れている先が温度をなくしていく。
ただ、怖くて、捨てられるのか、飽いて殺されるのか、そう思ってしまえば逃れたくなる。
男の下からもがき出ようとしても、押さえつけている男にとっては抵抗にすらならない。乳房を乱暴に掴まれ、揉みしだかれる。うなじにキスを幾つも落とされ、沈静していた熱があっという間に再燃する。
「なにがイヤなんだい? ねぇ、私のカワイイ   」
優しげな声とは裏腹に身体を弄(まさぐ)る手は性急に少女を追い詰め、あっという間に少女の体の所有権を奪う。
ちゅっ、ちゅっ、と音を立て後頭部からうなじに背中とキスが落とされ、赤い跡が残っていく。白い肌にはすで幾つもの赤い跡が残っていた。その上にまた、足されていく。
一つ増えるたびに少女の口からは悲鳴にも泣き声にも似た嬌声が漏れ、赤みがかった金色の眸(ひとみ)は涙が浮かんで、零れる。
「言いなさい。なにが気に入らない?」
足の先まで行った後、今度は下から上へ。一通り印を付け終わった後、耳元で囁いた。舌が耳を丹念に舐める。
「ん、ふぅ……ァん」
金と黒の髪が混ざり合う。
「素直に言わないと、…どうなるか分かっているね」
指が少女の蜜壷へ挿入される。十分に濡れているそこはするりと指を咥え込む。指はぐちゅ、ぐちゅと水音を立てながら胎内をかきまわる。二本、三本と指が増やされ、それに慣れた頃よくやく強情な少女は嬌声以外の声が上げた。
「……い、言う…から……お、ねがい……」
少女の理性は悦楽に飲み込まれて、今はただ、教え込まれたとおりに。
「いい子だね」
そういって、完全に酩酊した少女が舌足らずにたどたどしく告げる言葉に笑みを浮かべた。


「ひゃぁ……ぁぁぁあああああ………」


少女の中に、己の挿し入れて、全てを塗りつぶす。



***



「そんなことを気にせずとも、あるわけがないというのに」
男の腕の中、昏々と眠る少女。寝顔は普段よりも数段幼げだ。恐らく気を張り詰めているのだろう。気性もあるのだろうが、一番の要因は、ここが人の領域ではないからだ。
眸を濡らして、捨てないで、と繰り返すさまはまるで幼子に見えた。初めから手放すわけが無いというのに、少女はいつか捨てられると思っているようだ。そんなはずがあるはずがないというのに。あるとすれば、それは己が滅びるときぐらいのものだろう。
長い年月を生きてきたが、少女ほど執着したことなどない。
腕の中で眠る少女は、籠の中の鳥だ。
人外に狂気にも似た執着を押し付けられた、哀れな小娘だ。

「愛しているよ、私のフィノーリア」








男は窓から見える、二つの青を見渡した。
少女の髪を一度撫でてから、明日は久しぶりに外に連れ出してあげようと思い立つ。
きっと、晴れ渡る空の下が少女には似合うだろう、と確信して。
この少女に麦わら帽子は似合うだろうかと、思案して、そんな自分に笑った。





あとがき

多分今まで書いた中で一番エロい。
そして、全く夏らしくもない。お題とも合ってないし。あ〜あ
名前を出してないのはわざとです。理由は脳内妄想を文字にする上で弊害があったので。
色々混ざっている気もするけど、おおむね満足。これも青年少女。
男の見た目は20半ばから30手前の金髪のイイ男。誠実そうな腹黒。優しいけど、冷酷。
少女は17,8? なつかない高級種の黒猫な感じで。
ああ、世界設定は異世界のよくあるRPGな中世ヨーロッパ風。