私の母は、昔、旅芸人だった。
あるとき、この国の宮廷に踊り子として招かれ美しかった母はそのまま王に召された。



そして、私を産んだ。


私は女児であった。
身分の低い母。
明るかった母。
あんな男愛していないわ、と、笑って言い放つ母は美しいと思った。









朱煉









だからと言って、







「朱煉はもう大きくなったから大丈夫ね。明日、王宮から迎えが来るから貴方それに乗って王宮に行ってね。母さん、ちょっと、海外行ってくるから」


は、無いと思いますことよ?

「え?なにそれ!」
「明日から母さん昔の友達のとこ回ってこようかと思ってね。あ、お金なら心配しなくていいわよ。景藍様が費用出してくれるから」



景藍様。

言わずともこの国の王様で、私の父に当たる人。
なんでも母に一目ぼれをして、アタックして、王様の権力使って母さん手に入れて私を儲けたのまではよかったけど、そこからが母さんの本領発揮。
私を産んだ後、「こんなとこで暮らしていく気も、この子をここで育てる気もございません」と啖呵をきり、さっさと周りが止めるまもなく街に降りて行ったそうだ。もともと、王宮の中にも母のことを快く思わないものが多く、というか大半で国を傾けられでもしたら大変だ! と画策したものも多かったそうで。
それを利用して外野に下ったそうだ。
ついでに言えば、面倒の一言で認知させる暇すら与えなかったそうだ。


しかし、そこで諦めなかった景藍様は強い。
並の男ではなかったのだろう。
母を追いかけてお忍びで城下まで良く来ていた。
遊んでもらった記憶もあったりする。無邪気に…


「それでね、景藍様ね、成長した貴方に会いたいって言っててね、なんか可哀想だからOKしちゃった」
「……なんの?」

怖い、怖すぎる。
母は何をOKしたのだろう。イッヤ〜な予感がする。

「王宮に貴方を迎えさせることをv」
「なにそれ!! ちょっと私困るわよ。バイトは!? 学校は!?」
「バイトなんてしなくても王宮にいれば贅沢三昧出来るわよ」
「イヤよ!! 陰湿なイジメとか、そういうの一杯ありそうで怖いし」
「そうねぇ」

そうねぇ、ってのん気に言ってないで!

「朱煉は私に似て綺麗だから色々めんどくさそうね」

ううっ、そんなの庶民だからいいもんであってあんな貴族ばっかなとこ行ったら下賎の身が! とか言われそう。行きたくないよぉ。

「諦めて行っちゃなさいな。景藍様、すっごい楽しみにしているし、シアリス様”は”優しい方だから大丈夫よ」
「ねぇ、母さん。その”は”ってなに? ”は”って」
「その他の馬鹿はやることなすこと画一的で面白みもないわってこと」
「それってさ、」
「うん」
「シアリス王妃様も性格悪いってこと?」
「ううん」
「あ、違うんだ。よかった」
「ものすごく性格が悪くて悪女。+裏でコソコソ、表で堂々とどっちもやれる人よ」
「イヤぁーーーーーーーーーーー」

頭を抱えました。
うずくまりました。
ひどいですお母様。
可愛い可愛い一人娘をそんなとこに送り出すなんて、

「朱煉、うるさい」
「ひどっ、」
「別にたかが一年の我慢でしょ」
「一年もですか!!」
「あれ? 言ってなかったけ?」
「聞いてない、聞いてない」
「大丈夫」
「なにがよ?」
「景藍様も王子も心優しいから」
「母さん」
「ん?」
「遠まわしにこの国の王族の男は馬鹿って言ってない?」
「そうかもね」
「不敬罪」
「大丈夫。あんたも一応王族になるから」
「イヤ」
「いやって言っても父親が変わるわけも無く。むしろ執着しているから」
「母さんと顔が似ているからって?」
「……多分」
「その、……ってなに?」
「心の中の計算時間」
「…………そう」
「さて、もう夜も遅いから寝ましょう」
「荷物はもう、つめたの?」
「ええ」

この計画犯!
女狐
悪女
えーと、後は、駄目だ思いつかない。
クソ、なんて女なのよって罵るべき?


「朱煉、朱煉」
「なに?」
「あんた男いる?」
「もう少しさ、オブラートに包もうよ」
「で、いるの?」
「いない」
「過去には?」
「居ないと思う?」
「なわけ無いわよね。て、ことは最後までヤった相手もいるわよね?」
「だから、少しはオブラートに包んで! いるけど。」
「そう、よかったわね。初対面で処女奪われましたってことにはならないわね」
「……どういう意味?」

その言い方が凄くイヤ。
ものすごくイヤ。
というか、恐怖を覚えます。
流石は宮廷の陰湿な嫌がらせに二年も笑って過ごし、子までなしただけはありますよ。お母様。

「今、どっかの国の王族やそれに連なる人物達がいるらしくて、嫁探ししているんだって」

今、うふって感じで笑ってくださいましたけど内容はいやよ。この上なく。とてつもなく。

「だから?」
「あんたは、顔とスタイルはいいから下手すると気に入ったって言って結婚させられるかもしれないわねって話。と言うかそれですめばいいけど、思い余った末に押し倒されてヤられちゃうかも知れないわよね」
「お断りします。大人しく家にいます。だから許してください」
「ダ メ!」
「ひどい。娘が見ず知らずの男に喰われてもいいって言うの!!」
「初めてじゃなきゃいいかなって?」

首をかしげてにっこり。
母さん、今年で齢33と言うには若すぎる仕種よ。
なのに似合うのは何故?
と言うか貴方は私を18で産んだのね。
私、現在15なのだけど結婚しても言って言うの?(いいって言いそうだけど)

「そういう問題?」
「そういう問題よ」

きっぱり言い切られた。
ひどいね。
しかも肌が荒れるからって呆然とした娘を見捨てて寝る!?
いいよ、私ももう寝るさ。
見送りなんかしてやるものか!



top