ガラスの
瓶に
詰めた



「ねぇ、先生?」
「なにかな」

 今日はいつもより体調が良くないのでベッドの中。先生は少し離れた椅子に座って、本を読んでいる。集中しながらも意識は向けてくれているようで、返事はすぐに返ってきた。

「私は、あとどれくらい生きれる?」
「さぁ、現在の段階だと三ヶ月程度は保障できるけど、それ以降はなんとも言えないね」
「ふぅーん」
「いきなりどうしたんだい?」
「なんとなく」
「そう」
「うん」

 それっきり先生はまた本の方に意識を戻した。だから先生は好きだ。他の先生みたく誤魔化したり、的外れに慰めたり、怒ったり、変に騒ぎ立てない。先生にとって私は研究対象。未知の病を宿すこの上ないサンプル、ついでに言えば生きるためにつけられた条件。ドクターと患者の関係よりは研究者と研究対象の方が事実的に近い気がする。だから簡単に私の現状を教えてくれる。死ぬよ。って簡単に真実を教えてくれるんだわ。

「先生」

「ねぇ、先生」

「せんせーいってば」

 もう、本の世界に落ちちゃってる。さっきからずっと気になってんだけどなぁ。ベッドから降りていいかな? ダメかな? やっぱりダメだよね。ああ、でも先生が来る前に比べたら雲泥の差。大層な真似して何の変化無かったし、頭でっかちばっかりで大っ嫌い。極たまににではあるけど外まで歩けるなんてはじめて! だから先生が私を見る目が物に向ける瞳と同じでも更々構わないわ。

「せんせーー!」
「……なにかな」
「もぅ! 何度も呼んだのに」
「それはすまなかったね。気をつけるよ」
「絶対嘘!! まぁいいや、あのネ先生」
「うん」
「それってさ」

 おもむろに指し示したのは先生が持ってきたそれ。入ってからずっとテーブルの上に置かれている。ガラス瓶に詰められた不気味な肌色。

「なぁに?」
「ああ、これね。君に教えようと思って持ってきたんだけど、芳しくないようだから言わなかったんだけど」
「それを此処に持ってきた時点で悲鳴を上げてもおかしくないと思います」
「そうかな」

 大きく首肯。だってグロテスクだもの。気持が悪いわ。けど、よく見かけるから慣れてしまったのかそれだけ。

「う〜ん、見慣れちゃっているせいかな。あまりそう思わないんだけど、やっぱりお嬢様には悪いんだ」
「多分そう思うわ。お父様は良く持ってたりするけど。それは誰の?」
「此れは君の。此の前のオペで採取したものを培養したんだ」
「へぇー。気持悪い色をしているのね」

 先生は私に見やすいように掲げてくれる。一目見て正常ないってわかるほど変な色している。へぇ、私って中身真っ黒なのね。
 いつもお父様が持ってくるのは綺麗なピンク色だったのに。アレの方がまだましね。

「そうだね。僕的には楽しいけど」
「でしょうね。先生? 明日は外いけるかしら?」
「君次第かな。明日は新しい薬を投与するからそれが君に合えばいけるんじゃないかな」
「嬉しい。じゃ、今日はもう休むわ」
「そう、ならおやすみ」
「おやすみなさい」

 ぱちりと音が聞こえた後、光は消えた。壁の向こう、ホログラフを映した画面の先には私を監視する人たち。私も同じだと思う。瓶詰めにされた臓器。グラフィックに囲まれた私。変わらないじゃない。