薔薇

監獄



 薔薇に埋め尽くされた庭園。を似せた幻像。実際はラボの一角にある温室の壁に映像を映してあたかも、外にいるように見せているだけだ。現実の外はこんなに美しくない。空は澄んだ蒼ではなく分厚い雲に覆われたくすんだ空に、有害物質に汚染された水と大地、野生生物は姿を消し日に日に自ら首を絞めていく世界。内側をどんなに病へと冒されていようとも、少女に与えられるものは人が手をいれ、綺麗に綺麗に作ったものだけ。内が少女の首を絞めようとも外から防ごうと、躍起になって正常にしようとする。世界と逆を行く少女。

「せんせい」
「なんだい?」
「此処にベッドを置いてもらってもいいかしら?」
「あまり気が進まないね」
「ダメ?」
「君がどうしてもと、望むなら僕に拒否は出来ないよ」

 君の命も大事だけれど、命令するならそちらが優先されるよ。と言えば、少女は目を細めて薄く笑う。会話はそこで途切れる。

「匂いが強すぎるからね、此処は。長時間此処に君がいることは好ましくない」

 何に反応するか分からないブラックボックスな身体に不用意な真似をしたくないのが本音だ。したかったらクローンでも作ってそれにすればいい。サンプルとデータから似たものは幾らでも作れる。

「もう、いいわ。先生帰りましょう」
「いいのかい? 次は二週間後だよ」
「うん。もういいの」
「珍しいね、」
「そうかしら?」
「そうだよ、いつもはもっと時間ギリギリまでいるのに」
「綺麗だけど、なんかやなんだもの」
「香りが? それともなにかな? 詳しく言ってくれると今後に役立つんだけど」

 自分としては濃すぎる薔薇の香りに気分が悪くなる。少女はそうと思っていないようだけど、違うなら今後対処しなければならない。

「花がね」
「ああ」
「可哀想に見えて」

 可哀想? 自分には理解できない認識だ。これらの花は少女に見てもらうためだけに存在する。それを少女が否定してしまえば花など何の価値も無くなる。今の発言はこれらに関わる全てを否定したことと同義だ。少女にそんな意図は無いのだろうけど。

「閉じ込められているように見えて」
「ふぅーん」
「此処(温室)じゃなければ、すぐに駄目になってしまうって分かるけど」
「けど? 此処にある花は全て君のためのものだよ」
「分かってる。分かってる、だから、私も空想に生かされている気がして、イヤになったの」



尻切れトンボ。かなり苦し紛れ。時間軸はばらばら。ただ、温室にいることを書きたかっただけ。初の先生視点。先生の中というか、本人も温室(全体)=少女 になってる。あいも変わらず意味不明だわ。